乳がんの手術方法
乳がんの手術は、腫瘍とその周囲の正常乳腺を含めて切除する「乳房温存術」と全乳房を切除する「乳房全摘術」、皮膚を残して乳頭・乳輪と乳腺を切除する「皮膚温存乳房切除術」の後に人工乳房(インプラント)を入れる「乳房再建術(一次一期再建)」があります。
同時に、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清を行う場合もあり、リンパ節の切除方法は、術前の触診や画像診断で決まります。
センチネルリンパ節は日本語で「見張り役」という意味です。がん細胞が最初にたどり着くリンパ節を「がんの転移を見張るリンパ節」と見立ててつけた名称です。手術開始時に、乳輪に色素を入れて、染まったリンパ節を摘出し、がんの転移があるかどうかを調べます。
腋窩リンパ節郭清の「郭清」とはすべてを取り除くという意味で、脂肪も含めて、腋窩リンパ節を取り除く手術です。
手術はどう行われるか
手術は全身麻酔です。まず、静脈麻酔を行います。その時「眠くなります」とお声かけしますので安心してください。その後、吸入麻酔と酸素を投与しながら麻酔が維持されます。麻酔が効いた後、手術側の腕を90度に開き、安全で安楽、な体位を整えます。執刀医は切除範囲の印を書き、消毒後に清潔な布をかけ、手術の準備が整います。
手術は、皮膚を切開し、病変部を切除します。その後、切除した部分を洗浄して、リンパ液を流すための管を挿入し、皮膚を縫合します。麻酔から醒め意識が戻ってきたら麻酔科医と看護師が呼びかけますので、声が聞こえたら、うなずいて下さい。麻酔から醒めたタイミングで病室に戻ります。
手術室では、執刀医・麻酔科医・看護師がチーム一丸となり、手術を行っています。手術当日の朝に看護師が患者様の病室を訪問し、全身状態の把握と緊張や不安、心配事など患者様の状況を理解します。把握した情報を麻酔科医と共有し、手術室に患者様を受け入れた後、緊張と不安の軽減に努めます。手術翌日の術後訪問では、術中の麻酔の影響や創部の痛み・状態や体調などを観察し、看護を致します。
手術室の看護師は、外来や病棟と兼務しているため、手術時に知っている看護師の顔を見て、安心される患者様も多いです。私達は、術前・術中・術後の限られた時間を通して、患者様の思いや訴えに耳を傾け、寄り添える看護ができるよう努めております。
看護師 岩佐雅美
ホルモン療法の副作用としてのホットフラッシュ
「場所と時間を選ばず、急に汗が噴き出して一人だけ汗を拭きながら仕事をしていてはずかしい」「眠っている時も急なほてりと汗で目覚めてしまって辛い」
これはホルモン療法薬の副作用のひとつであるホットフラッシュと呼ばれる「のぼせ」「ほてり」「発汗」に伴う日常生活上のお悩みの声です。
乳がんには、エストロゲン(女性ホルモン)を栄養として増殖するものがあり、全体の6割から7割を占めています。ホルモン療法は、体内のエストロゲンの量を減らしたり、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを邪魔したりすることで、がんの増殖を抑えます。ホットフラッシュは、更年期の症状としてよく知られていますが、血液中のエストロゲンが少なくなると、体温調節がうまくできなくなるために、このような症状が起こると考えられています。また日常生活の中で突然症状が出現するため、いつ出現するのか予測がつかないゆえの不安感も伴います。そして家族や周囲の人にはなかなか理解してもらえず、精神的な負担を抱えることもあります。ホットフラッシュは軽いものも含めると50%以上の患者さんに出現する症状です。通常、飲み始めて数か月ほどで軽快していきますが、症状が強い時や長く続く時には、日常生活上の工夫の説明、漢方の処方なども検討できます。医療者にお話し頂くと心だけでも軽くなることがあります。おひとりで抱えたりせずにぜひご相談ください。
看護師 永井都穂美
「外来通院での内服抗がん剤について」
現在、女性の10人に1人は乳がんになるといわれています。そんな中、治療方法も日々変化しており、残念ながら再発してしまった患者様の中には、通院で抗がん剤治療を受けている方も多くいます。一口に通院治療と言っても、内服薬、点滴など種類は様々です。
当院の外来では、内服による抗がん剤治療を受けている方も数多くいらっしゃいます。副作用には個人差があり、抗がん剤と聞くだけでも不安を感じる方も多いと思います。また、仕事をしている、小さいお子さんがいる、介護をしているなど生活スタイルも人それぞれです。再発したことで、いつもあった日常の変化を余儀なくされ、治療をしなくてはいけない、やりたくない事、嫌な事と向き合わなければなりません。そのような状況の中、一人ひとりに合わせた最善の方法を患者様と話し合いながら、副作用や精神的苦痛を最小限にとどめ、治療が継続できるよう関わらせていただきたいと考えております。
当院では、気になる事、不安な事があれば、いつでもお電話をいただくよう伝えています。辛い時や困った時、「話せてよかった」と言っていただけることも多く、私たちもその声を聞いて安心します。
こうして、いつでも医療者と話しができる事、患者様との距離が近い事が当院のいいところだと日々感じています。
看護師 下鳥希衣子
「入院中の乳がんの抗がん剤治療」
乳がんの治療には手術療法、ホルモン療法、化学療法、放射線療法等、患者様の病態に合わせた治療が必要となります。患者様により手術前に化学療法が必要な方もいますが、殆どの患者様は手術後の病理結果により治療内容が決まります。
当クリニックでの化学療法は病棟看護師が担当しています。化学療法に対する不安はとても大きいものです。特に、副作用の脱毛は患者様にとって一番の苦痛です。当クリニックでは脱毛を防ぐことはできませんが、治療後、元の髪質に早く戻れる事を目的に、独自の方法で頭部冷却を行っています。また、脱毛以外にも治療中の患者様の不安は計り知れません。不安を少しでも軽減できるよう治療中は、どんな些細なことでも電話連絡を頂くようにし、内容と対応方法についてスタッフ全員で共有できるようしています。私達は患者様にとって、いつでも手軽にコンタクトがとれる身近な存在でありたいと考えています。
看護師 池上久恵
リンパ浮腫(むくみ)について
リンパ浮腫とは、リンパ管系の損傷や、閉塞により体液が正常に流れない為に起こる浮腫のことをいいます。手術で腋窩リンパ郭清や放射線治療によってリンパの流れが悪くなった時に起こります。乳癌の治療を受けた全ての患者さんに発症するわけではありませんが、一度発症すると治りにくい例も少なくありません。軽い浮腫であれば自己管理をしながら通常通りの生活を送ることが出来ますが、重症化するとQOLにも支障をきたす事があります。発症の早い時期から治療を始め、悪化を防ぐ事が重要です。治療は、リンパドレナージ、圧迫法、スキンケア、圧迫下での運動療法があります。
浮腫を防ぐためには、日常生活の注意点があります。皮膚を傷つけず、腕を締め付けない様にし、腕に負担をかけ過ぎない様にしましょう。また、術後の肥満は浮腫のリスクを高めます。脂肪によってリンパ管を圧迫されて流れが悪くなります。バランスのとれた食事と適度な運動を心掛けましょう。
発症には、症状や体質による個人差もあります。早期に対応することで、改善がみられます。
リンパ外来は、圧迫感や緊張感なくリラックスして施術を受けられる様、対応しています。浮腫で少しでも悩んでいる患者さんのサポートに取り組んでいます。
看護師 八城亜紀子
※次回は乳がんの治療薬について掲載予定です。