2012.1. 1 | お知らせ
2011年講演会「乳がん最新情報と患者さんを支えるチーム医療」
新年あけましておめでとうございます。本年が皆様にとってよりよい年となりますことをご祈念いたしております。
札幌ことに乳腺クリニック講演会「乳がん最新情報と患者さんを支えるチーム医療」(2011.12.3.開催)の基調講演概要をご紹介いたします。副作用が少ない薬物療法をテーマに浜松オンコロジーセンターの渡辺亨センター長に講演していただきました。以下に症例紹介部分をまとめました。早期発見の重要性を読み取っていただけましたら幸いです。
渡辺亨松オンコロジーセンター センター長講演
「抗がん剤は、髪の毛が抜ける、吐き気がある、白血球が減るなどの副作用が知られています。一方、効果は乏しいとか、効果がはっきりしないという認識が根強くはびこっています。
抗がん剤治療は体が弱る一方とか、免疫力が低下する、寿命が縮まるなども良く言われますが、誤りです。また、抗がん剤の副作用は専門家が使用すれば軽い」とお話され、以下の症例について解説されました。
年齢は57歳。毎年乳がん検診を受けている向いの奥さんに誘われ、隣の奥さんと一緒に検診を受けました。マンモグラフィーを受けて要精査となり、浜松医療センターを受診。病診連携で地域で一緒にやっている外科の先生に診てもらい、触診と超音波検査、丁寧な説明を受けました。MRI検査の結果、乳房内での広がりは少ないけれど、腫瘍の大きさは3.5cmでPETCT検査の結果では他の臓器に転移していない。病期は2A期です。
患者さんは乳房温存術、乳房を残したいという希望があります。外科の先生は癌の性格に合わせて薬を選んで治療し、しこりが小さくなってから手術をする方法がいいのではないかと、つまり術前の薬物療法の可能性を説明しました。
乳がんの抗がん剤治療は大きく分けて、3種類の治療薬があります。乳がん組織のホルモン受容体のHER2タンパクの状態により治療が異なります。このような乳がんの性格を調べるために、針生検をします。
生検の結果、この患者さんは浸潤性乳管癌という乳がんで、エストロゲン受容体は陽性、つまりホルモン療法の飲み薬が適している。また癌の性格はおとなしいようです。
この患者さんの経過は、一番最初マンモグラフィーで大体3cmくらいのしこりが乳首のすぐ裏ぐらいにあった。一年半経ったくらい治療した最近は、マンモグラフィー上でほとんどしこりの影が見えなくなり、癌が全部消えていた。顕微鏡でみても消えていた。一年半くらい治療を続けた結果、この患者さんは形がいい温存手術をすることができました。
次は32歳の若い女性です。朝シャワーを浴びているときに、右の乳房の下外側をふっと触ったら鶏卵ほどの大きさのゴツゴツしたしこりを感じた。翌日、総合病院の外科を受診し、診察を受けマンモグラフィー、超音波、MRIを実施した結果、4cmの乳がんなので乳房全摘が必要だと言われました。
患者さんはどうしても乳房をとるのは嫌だと思い、当院で乳房温存の可能性についてセカンドオピニオンを聞いてみることにしました。私の当時の説明は、今の状態で乳房を温存したとしても形の良い乳房は残せない。手術の前に抗がん剤治療を行って癌を小さくすれば温存手術は可能になるかもしれません、でした。
この患者さんは六か月間薬物療法をしました。治療開始後、癌はあっという間に小さくなり触ってもわからなくなりました。超音波検査では3mm位の芯は残っていますが、それが生きている細胞なのか抜け殻のようなものなのかはわかりません。手術をしてみないことにはわからない。
二週間後、乳房部分切除を受けました。センチネルリンパ節に転移はなかった。手術の翌日病室で恐る恐る自分の胸を触ってみたら乳房の形はもとのまま残っていた。その一週間後に病理検査の結果、癌細胞はすべて死滅していたといわれました。病理学的完全寛解、顕微鏡でみても癌細胞が見えないという状態になった。この薬物療法で髪の毛は確かに抜けましたから、副作用のない治療ではない。しかし、これ以上の結果はないわけですね。
※渡辺先生には、これらの症例を通して、外科医、薬剤師などとの「連携」により薬物療法の効果があがっていることをご紹介いただきました。札幌ことに乳腺クリニックでは、同基調講演およびパネルディスカッションの内容を後日、冊子にまとめます。
同講演会には大勢の市民の方々にお集まりいただきましたこと感謝申し上げます。
※浅石和昭理事長による「乳がん検診について」の記事がMEDIA OFFICE C-Press「マイタウン健康ナビ(
http://www.c-press.jp)」に掲載されております。こちらもお読みください。